実力不足?「本物の冒険家」と「フェイク冒険家」の違いを考える。
2019/05/14
このページは 本当に凄い日本の冒険家、何人知ってる? の続き。
世間では「すごい!快挙!」みたいに言われてるのに、その実態がイメージと大きくかけ離れているケースについて考えます。
フェイクの傾向
前のページで見たように、有名で凄い冒険家もいれば、世間的にはほとんど無名でもそれと同じかそれ以上に凄いことを成し遂げた冒険家もいます。
彼らに共通するのは「普通の人がやらないような事をやってみたい」という好奇心と「自分がまだ知らない新しい世界が見たい」という強い欲求。
たとえリスクがあると理解していても、抑えられないほど強い心からの衝動だと思います。
そういった人たちとは別に、「普通の人がやらない事をやっている」のは確かにそうなんだけど、やっている内容を実際よりも大幅に盛ってる人がいます。
残念ながら、そんな人に限ってメディアがさも偉業のように取り上げる傾向というのが確かに存在します。
取材している以上知らないはずはないのに、都合の悪い部分は視聴者に隠して上辺だけキレイなストーリーをお茶の間に届ける。そんなケースはいくらでもあります。
虚像で創り上げられた冒険家は本物と比べていったいどこが違うのか?彼らの実力はどうなのか?
ここから具体例を挙げて見ていきます。
それって本当に凄い実績なのか?
「私はこの人たちを応援しているのに。失礼だな、君は!」という人はゴメンなさい。
でもね、違う。本物とは、明らかに。
野口健
野口健(1973~)はアメリカ、マサチューセッツ州ボストン生まれの登山家。
植村直己の本に影響を受け、中学生の頃に登山を始める。1998年には25才でエベレストに登り、当時の七大陸最高峰登頂最年少記録を樹立した。
まず最初は、違いのわかるアルピニストとして有名なこの人。
「七大陸最高峰登頂最年少記録」でしょ!?
登山のことは知らないけど、かなり凄いんじゃないの??
そんな声が聞こえてきそうです。
登山に特別な興味がない人はあまり知らないんじゃないかと思うけど、8,000m級などの極めて高い山を登る際には大きく分けて2つの方法があります。
1つは極地法といって、エベレストに登る一般人のほとんどがそうであるように集団で、大勢のスタッフのサポートを受けながら登るスタイル。事前のルート工作や重い荷物の運搬はシェルパに任せることが多い。
もう1つはアルパインスタイルといって、一人もしくは少人数で動き、ガイドその他スタッフのサポートを受けないスタイル。荷物はすべて自分で持ち、状況判断も自分自身で行います。
めちゃくちゃ簡単に言えば、他人の力を借りて登るか、自分の力だけで登るかの違い。
そして野口健氏は「極地法」で登っています。
某コーヒーのテレビCMに登場以後、野口氏は本人自らアルピニストと名乗っているんだけど、本来アルピニストとはアルパインスタイルで山に挑む登山家のことであり、極地法で登る人のことではありません。
つまり野口健氏がアルピニストかどうかという疑問に対しては明確に「NO」なわけです。
ちなみに故人ですが、日本で一番有名な冒険家・植村直己その人もエベレストに登った時は極地法でした。
けれど、彼はエベレスト以外にも世界初の冬季マッキンリー単独登頂(もちろん極地法ではない)など実力を示す多くの実績があります。
野口氏の場合、七大陸最高峰登頂を達成するために必要だった技術や経験を持っていたのはすべて雇われた回りのスタッフであり、必要な資金さえ用意できえば(もちろん最低限の心肺機能や多少のトレーニングは必要ですが)誰にでも十分に達成の可能性があるっていうのが本当のところ。
登山家としてのレベルは並みで日本トップクラスでもありません。
ただし、富士山やエベレストの清掃登山、海外戦没者の遺骨収集など、彼のその後の活動内容は評価されてしかるべきもの。その辺は純粋に素晴らしいと思います。
南谷真鈴
南谷真鈴(1996~)は2017年現在の七大陸最高峰日本人最年少登頂記録保持者。
七大陸最高峰に南北両極点の到達を加えたエクスプローラーズ・グランドスラム達成者でもある。
女子大生冒険家として昨年から今年にかけて一躍有名になった彼女も、野口健氏と同じで記録の対象となった山は全てガイドに連れられ、フルサポートを受けて登っています。
それでも「過去最年少の20才で達成なんて、ものすごい偉業じゃないか」という人もいるかもしれませんが、海外登山って準備にめちゃくちゃお金がかかります。
なので、そこにつぎ込める莫大なお金がある人(もしくはその莫大な資金を出してくれるスポンサーが付いている人)しか、そもそも挑戦できない。
つまり「技術難易度が高いから出来ない」のではなくて「莫大な費用がかかるから出来ない」わけです。
エクスプローラーズ・グランドスラムの条件である南極北極、両極点への到達も、何かすごい冒険をしてそこまで行ったわけでなく、彼女は極地ツアーに参加しただけです。
そりゃ極点行きのツアー船に乗れば、誰でも行けますよね?
ロシアの原子力砕氷船である50リャト・パヴェーデ(50 лет Победы)をPhantom2というドローンで撮影したもの。同砕氷船によって行われた北極点ツアーの様子がドローンによって撮られる。 pic.twitter.com/KEzlBjFzEx
— 無人機bot (@mujinbot) 2017年2月26日
このツイートでも分かるように、今の時代極点ツアーは普通に行われています。
そのツアー参加者を「冒険家」と呼ぶことには違和感しかありません。
本物の冒険家に悪いのでやめましょう。
栗城史多
栗城史多(1982~2018)は「日本人初の世界七大陸最高峰の単独無酸素登頂」に挑戦しているということでNHKでも特集された若き登山家。
キャッチフレーズは「冒険の共有」。2018年5月21日にエベレストにて死去。
彼に関しては、正直何から書いていいか迷うほど、ツッコミどころが多いです。
よく指摘されている部分としては、「七大陸の最高峰すべてに酸素ボンベ無しで挑戦するなんてすごいよね!」というイメージで売っていながら、実は「エベレスト以外の各大陸の最高峰って、高さ的にそもそも酸素ボンベが必要ない」ということ。(エベレストの次に高い南米大陸のアコンカグアでも6,962m)
ツアー登山のお客さんならともかく、登山家や冒険家を名乗る人でこれら六大陸の山に酸素ボンベを持っていく人は元から誰もいないわけです。
そして各大陸最高峰の中で唯一、登山家でも酸素ボンベを使う人が多いエベレストには、過去8度挑戦して結局一回も登れていません…。
また、これよりさらに問題なのが、「単独ではないのに単独を偽装していた」という点。
彼の過去の動画や画像などを検証した人たちが何度も指摘していますが、栗城氏のエベレスト挑戦には何人ものシェルパが雇われ、ルート工作などを請け負っています。
そもそも彼は岩壁登攀に必要な技術などを何も持っていないので、(こっそりサポートを受けたりしない限り)「単独」で頂上にたどり着ける可能性はゼロだと言われています。
「冒険の共有」にしても、当初の彼は比較的多くの動画などを公開していましたが、単独だとしたらあり得ないような矛盾点などを指摘されるうちにどんどん情報を制限、検証されるのを防ぐため過去の動画も削除するようになりました。
近年はクラウドファウンディングなどを使って呼びかけ、一般の人からも計数千万円の資金提供を受けていましたが、その際に約束していた「情報の共有」が実際にはほとんど成されていなかったり、集めた資金の収支報告もされていないなど、多岐にわたっての問題点が指摘されています。
実は僕の知り合いでも栗城氏のことを「実力はそこまで無いかもしれないけど、諦めずにチャレンジし続ける姿勢がすごい!」って言ってる人がいるんだけど、僕は「成長する努力をせずにただ回数を重ねること」は諦めずにチャレンジし続けてることにはならないと思う。
例えるなら、全然勉強しないのに他人からお金を貰いながら毎年東大を受験してるようなもの。
事実栗城氏は登山のための実践的なトレーニングに費やす日数よりも講演会の方が明らかに多く、毎回高度順応の期間が短すぎると指摘を受けながらも改善は見られませんでした。
それが2018年5月、8回目のエベレスト挑戦の途中に亡くなったことにも繋がります。
現地ヒマラヤンタイムズの第一報によると、同行していた4人のシェルパ(おそらくそこから先のルート工作をしに行っていた)が標高6,250mのC2(第二キャンプ)に戻ってきたところ、テント内で死亡している彼を発見したそうです。
高度順応が上手くいっておらず咳が止まらないと言っていたことから高山病による肺水腫を起こしていたのかもしれません。享年35歳。合掌。
結論
ここまで読んでくれた人は同意してくれるんじゃないかと思うんですが、有名な人っていうのは結局マスコミに取り上げられた人っていうだけで、「有名な人=すごい人」ってわけじゃありません。
無名でも凄い冒険家はいくらでもいるし、まだ世に知られていない人の中にさらに凄い冒険家がいるかもしれません。
その人たちが「ただ正当に評価されてほしい」、僕が思うのはそれだけ。
そしてこの構図と同じように、その他の物事でも、メディアの取り上げ方ひとつでそのモノの見え方が変わる例はいくらでも。
テレビや新聞、もちろんネットもそうだけど、ただ鵜呑みにする前に、多角的な目線を持って自分で調べることが重要なんじゃないかなーと僕は思います。
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